株式会社 Jコスト研究所

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J-Cost Research Center

連載コラム 『Jコスト改革の考え方』目次はこちら

2017年1月より、『Jコスト改革の考え方』というコラムをおよそ月に一度の頻度で更新していきます。

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2023年1月

2023年 所長の年頭ご挨拶

あけましておめでとうございます.

世界が大きく揺れ動くことが予想される2023年,日本経済もその大混乱に巻き込まれる事は間違いありません.

旧態然の形のまま沈んでいく会社が多数あるでしょう.その一方で,激動の波に乗り急成長する会社もある事でしょう.貴社が後者である事を祈るばかりです.

[1] 昨年を振り返る

2022年5月,このコラムでこれからの日本経済に以下の【A】,【B】,【C】,【D】の大変化の大波が押し寄せると書きました.今年の年初で振り返りますと

  1. コロナ禍による生活環境の変容
    サービス業,アパレル業界は大打撃を受けました.
  2. 急激な経済回復に伴うインフレ懸念と,それに伴う金利上昇,円安
    世界中で金利が上がり,日本のみ据え置きのゼロ金利の為,恐れていたように一時期150円台まで円安になり,年末に130円台まで戻しましたが,赤字国債1066兆円の内536兆円日銀が保有している…と言う事は,536兆円余分にお札を印刷した事と同じで,江戸時代の小判の改鋳と同じで,やがて世界市場における『円』の価値を下げる事になります.2023年度又150円台になってもおかしくありません.心配です.
  3. ロシアによるウクライナ侵攻
    食料とエネルギー源の供給源で価格高騰…ヨーロッパは直撃しましたが,日本にも遅れて大きな影響が打ち寄せはじめました.
  4. 中国のゼロコロナ政策によるロックダウン
    心配していた通り,12月まで中国はゼロコロナ政策を推し進め,工場封鎖,コンテナ船の大渋滞を引き起こし,世界のSupply-Chainを毀損しました.結果として,iPhoneやテスラを始め,多くの製品が減産を余儀なくされ,水面下では中国離れが進行しているとされています.12月に入り,中国政府は『コロナ対策・ゼロ』に方針変更,現在人口の半数が感染しているとか言う話が伝わっていますが,市民の活気は戻ったようです.活気は戻っても,ゼロコロナで 懐具合が悪くなった 一般市民にとっては,不動産に投資する余裕は無く,不動産バブル の崩壊が噂に登り始めました.もしバブルの崩壊がはじまれば,その影響は全世界に伝播することでしょう….

総括すれば,2022年は5月にこのコラムで予想したように悪い結果で暮れました.皆様の会社の状況はいかがでしょうか?

そして皆様の取り組まれた社内改革は,昨年度は順調にお進みでしょうか?

[2] 2023年度はどうするべきか

昨年後半,いくつかの会場で多くの会社の改善事例発表を拝見する機会がありました.弊社の立場で評論すれば,新商品の開発については各社それぞれご苦労されていて,その企画が成功することを祈るばかりです.

その新商品のSupply-Chain即ち構成部品の調達・生産・在庫管理・物流計画等につきましては,取り組みの甘さが気になりました.

2023年度,全世界企業の改善テーマの一つは,従来の世界の工場とされた中国にべったり依存していたSupply-Chainを,いわゆる地産地消型…消費地の近いところで生産し危険分散を図る事があります.

日本国内を活躍の場としている企業においても,購入品は,極力日本国内のSupplierから調達し,日本国内工場で生産することへの転換が必要だ,と言う事です.

その理由は,以下のような事実に基づいています.

  1. 世界各国の政治・経済体制が非常に不安定になって居てその地政学的リスクから逃れるため
  2. 全世界規模で,船腹数が不足し,運賃,Lead-Timeが不安定化していること
  3. 『Jコスト論』から見ると,輸出入に伴うLead-Timeが長く,結果としてSupply-Chain上の在庫が,運転資金の負担になり尚かつ,市場の変化に追従することの妨げになって居る事等にあります.

[2-1] SCMにどう取り組むべきか

長年にわたって弊社ホームページのコラム『Jコスト改革の考え方』『所信表明』で詳しく述べているので,此処では要点を箇条書きで説明します.

2-1-1 改革の目的を明らかにする

お客様にお買い上げいただいて初めて利益が上がり,会社が存続できる…従って
『市場で他社製品を押しのけ自社製品を選んでもらう事』
が改善の目的になります.

水平展開の進んだ現代社会においては,構成部品はどの会社でも市場から入手できます.従業員の賃金も各社大差ありません.従って『価格』『品質』ともに差を付けられないと考えた方が良いのです.

差が付くのは,従業員全員が知恵を絞ってつくり上げたSupply-Chainによって作り上げた,『Order-to-Delivery-Lead-Timeの短さ』が改革の第1目標になります.第1目標を達成した後,そのレベルを維持した上で,『Total-Lead-Timeの短縮』が改革の第2目標になります.

2-1-2 まずOrder-to-Delivery-Lead-Time短縮に取り組む

  1. 販売店頭で,実態調査
    同業他社と徹底比較し,自社の実力を知る事が第一歩です.その結果,いつまでにどの程度まで改善すべきかの目標が設定出来ます.
  2. 自社のOrder-to-Delivery-Lead-Timeは,どのような業務展開の結果なのか
    今の業務のやり方を,業務分掌や担当者から聞き出し,まず『ValueStreamMap(モノと情報の流れ図)』を作成します.
  3. 『モノと情報の流れ図』を基に現場の実態を『立ちんぼ調査*』する
    註;トヨタ生産方式の導入教育の中に『立ちんぼ』と言われる調査があります.ある製品に着目し,材料搬入から加工され他の部品と組付けられ,完成品になり倉庫に入り客先に発送されるまでを,じっと監視し続け,その実態を調査するのです.トラックで運ぶときは運転席に便乗させてもらうし,荷役作業も観察し続ける…これによってLead-Timeという概念を新人は叩き込まれます.具体的には,1個の部品に着目することで,
     生産;@生産頻度(工程待ち)A生産ロットサイズ(ロット待ち)
     運搬;@通い箱の収容数,B運搬頻度
     事務;@書類箱の上から処理(先入れ後出し)A即刻処理
    等々,業務の進め方でLead-Timeは大きく変動する事を体感できるのです.
  4. 実態調査した結果,多くの会社では,作業の順番を事務員任せにするところが多く,これが一番Lead-Timeを長くしていたと言う例もあります.
  5. 生産量の多い製品から取り組み,『モノと情報の流れ図』を検討し
    • 生産の頻度を増やし,運搬との整合性をとり在庫を減らす
    • 工程の流れに沿って通い箱の収容数の整合性をとり滞留を無くす
    等,全体を見ながら滞留を無くす(Lead-Time短縮)理詰めで解決案を練ることが大事です.

2-1-3 次にTotal-Lead-Time短縮に取り組む

改革されたOrder-to-Delivery-Lead-Timeを維持しながら,Total Lead-Time,即ち原材料仕入れから完成品在庫から納品までのLead-Time短縮,言い換えれば『棚卸資産の圧縮に改革』の矛先を変え,BSをよくしていきます.これによって,最終的な企業の収益性評価ROAを向上させていきます.

2-1-4 会社業務を時間軸で点検する事で指導者成を!

通常は自社の縦割り組織の業務の展開状況は,費用(金銭)と言う尺度で常に点検し修正していました.

Order-to-Delivery-Lead-TimeやTotalLead-Timeの短縮活動は,言い換えれば直接測定出来,人為操作の効かない時間という単位で自社の業務を点検・測定していくことになります.言い換えれば,『会社の縦割り組織に,時間軸という横串を入れ案件ごとの業務処理時間を測定し,内部に潜む経営課題をあぶり出し,俊敏に対応する組織に作り変える』ということです.これには以下のような大きな二つの目論みがあります.

当ホームページの『季節の御挨拶…2016年4月』に書いたようにOrder-to-Delivery-Lead-Time短縮を狙った業務の進め方は中国料理で発達し現在では世界中,どの分野でも展開されています.

  1. 『飲茶方式』完成品在庫を即引き当て,売れた分を後補充生産
    \begin{equation} \text{Order-to-Delivery-Lead-Time} \fallingdotseq ゼロ + 物流時間 \end{equation}
  2. 『一般受注料理方式』部品,半完成品在庫を持ち,即生産し(中国料理では数分以内)客に引き渡す.使った分は即後補充手配
    \begin{equation} \text{Order-to-Delivery-Lead-Time} = 数日以内 + 物流時間 \end{equation}
  3. 『特別注文料理方式』受注してから材料等を発注,到着を待って生産して引き当て
    \begin{equation} \text{Order-to-Delivery-Lead-Time} = 数ヶ月以内 + 物流時間 \end{equation}

このような3種類の業務形態が並行する中で,受注から納品,代金回収までの実務は,『営業部門』『生産・輸送部門』『品質保証部門』『製造部門』『調達部門』と言った機能別に縦割組織を通じて行われていますので,業務の進行を時間測定し,列車の運行ダイヤのように,時間と空間を一枚の図表で表現しないと,実態がつかみきれない事にあります.

この活動では,縦軸に工程(含一時置場)をとり,横軸に時刻をとって描いた図を『生産ダイヤグラム』と言いますが,これを描くことで,工場全体で,時々刻々何処で何をしているのか… 全社でみれば,今,A案件は甲部門で,B案件とC案件は乙部門で処理中である事が,管理者がネットで確認できるようになるのです.このような管理することが今もてはやされているDXの一つの局面であると考えています.これが第1の目論みです.

現在日本の会社では,大学出ただけの全くの素人を受け入れ部門単位で社内で育成し(最近の社内教育はかなり怪しいですが・・・)成績のよいものが役員になり,やがて代表取締役になり会社を運営することになります.

しかし見方を変えれば,会社役員も社長も一つの部門で育った悪く言えば専門バカで,大会社のさまざまな業務に精通しているとはとても言えない状況です.更に言えば,創業後しばらくの時間をたった会社では,社内の業務全般にわたって管理のできるレベルに精通し,Topを補佐できる人材は皆無ではないか?と危惧しています.

そのため,役員会は『群盲象を撫ぜる』状態になり,大きな決断がでず,30年間業務改革できずに,世界から周回遅れになっているのだと推測しています.

今回紹介した『会社業務を時間軸で点検するプロジェクト』に,将来の幹部候補生を参画させることで,自社の全容が把握出来,これ以上ないOJTになると思います.これが第2の目論みです.

[3] パーキンソンの法則の本質を悟る

私事ですが,四半世紀前,2世帯住宅を建て息子夫婦と住んでいますが,門扉から玄関までの通路の一辺4m足らず,面積にして約14uの庭を造ることが出来ました.角地だったので,庭師の薦めで道路に接する面はL字型に山茶花の生け垣にしましたが,当初,幹の太さは親指程度,透け透けで早く大きく育てと願って居ました.

庭の中央には孫が小さい時は1.5m角の砂場を作り,その跡が花壇となりました.昨年,コロナで家に籠もり,関心が庭に向き,花壇の手入れを始めてみますと昔と比べ庭が狭く感じ,巻尺で調べると,庭師は上面と道路面のみ刈り込みをしたいたため,生け垣が内側に伸びてきて,当初20cm程度だった厚みが,今では80cmを超えるまでになってしまっていたのです.庭の内側の空き寸法は4m弱から3m余になり,面積は約14uから9uに減ってしまっていたのでした.

この事実から,有名な『パーキンソンの法則』を思い出し,その意味するところを悟りました.外側と上側の制限を受けた生け垣は,制限のない内側に勢力を伸ばして来たのでした.

写真-1 庭の生け垣の本体

思い切って庭の内側から,生け垣の枝を切り落としていくと,写真-1のように,幹は人間の足首より太く逞しく育ち,上の方の枝は過密状態に重なり合い,弱い枝は,窒息状態で枯れていました.垣根の隠蔽性を確保出来るギリギリまで枝葉を取り除いたのがこの写真です.

生け垣でさえ,内側の枝振りを整理せずにいると,窒息して枯れるほど過密に枝葉が入り組み,生け垣そのものが大変なことになるだけでなく,中庭への日当たりを悪くし,風通しも悪くし,貴重な庭の面積さえも奪ってしまっている…状態になってしまっていたのです.

生け垣でさえこのように放置すれば悪影響を及ぼす…ということは生身の人間組織では,上司・部下,先輩・後輩というFactorが加わり,放置すれば『伏魔殿』になっていくのでは…危惧しながら庭作業を進めていました.同時に,パーキンソンの法則の意味を悟った気になりました.

生け垣の改造計画は,生け垣の内側から枝を払い,横方向には生かす枝と剪定する枝を峻別し,日当たりと風通しを良くしながら,生け垣の厚みを半減させる.出来た空間に棚を作り,そこに様々な植木鉢を並べ,庭を楽しむ…と言うものです.言わば,庭の立体活用です.第1期工事が写真-2になります.

写真-2 生け垣の内側の枝を払い,植木鉢棚を設置立体活用

【まとめ】

第2章で2023年に取り組むべきテーマは,地産地消に向けたSCMの再構築ですが,『会社の縦割り組織に,時間軸という横串を入れ案件ごとの業務処理時間を測定し,内部に潜む経営課題をあぶり出し,俊敏に対応する組織に作り変える事を提案しました.

提案のように今までになかったやり方と視点で業務を見直すと,拙宅の庭で私が経験した以上の,今まで気がつかなかった課題や,問題点が貴社の中で発見され,今までになかった解決の発想が生まれ,それが引き金となって,貴社の本格的DXの第一歩が踏み出されることを期待しています.

そして読者の皆さまにとっても,今年が飛躍の第一歩であることを祈念致します.


2023年1月吉日
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知