連載コラム『TOYOTAとNISSANの歴史をJコスト論で斬る』目次はこちら
- 2025年 3月31日公開
- 第 3回目 豐田喜一郎が『トヨタ自動車』を創業する
- 2025年 2月24日公開
- 第 2回目 豊田佐吉が『豐田式G型自働織機』を完成させる
- 2025年 1月18日公開
- 第 1回目 はじめに
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16回目まで掲載し中断中、25年3月から再開を予定しています。
お楽しみにお待ちください。
6月に入り,梅雨が始まるや否や猛烈な暑さが襲いました.
皆様いかがお過ごしでしょうか.
テレビでは朝から熱中症対策についての注意を放送し,特に注意すべきは,幼い子供たちで,身長が低いため,路面からの輻射熱を全身受けることになるので熱中症になり易いとのこと,また高齢者は,知覚が鈍くなり易く,暑いという事や,口が渇いた事に鈍感で,熱中症にかかり易いとしつっこく放送しています.
高齢者で,高血糖の筆者は,キンキンに冷やした緑茶とスポーツドリンクで対応しています.
皆さまも,御自分に合わせた水分補給得で,この酷暑を乗り切ってください.
さて,海外に目をやりますと,2025年6月は,世界史の教科書に載るような大きな出来事がありました.その主な出来事と,日本に及ぼす影響を,弊社なりに占ってみたいと思います.
韓国は1997年通貨危機に陥り,当時はまだ発展途上国があるとして先進諸国からの援助の手が差し伸べられ,危機を脱出しました.その後,奇跡的な発展を遂げたとして,自他共に認める地位を確保しつつ在りました.
当時の経済の専門家たちは,今韓国が中国に売りさばいている製品は,工業の発展とともに中国の方が韓国よりも安くできるようになる.日本と協力して全世界に打って出る体制を構築すべきと提案していました.
文大統領は,『反日』『親北朝鮮』『親中国』に舵を取り,経済専門家の言うとおりになってしまい,その上内政政策の失敗も相まって,韓国の現在の国の借金,企業の借金,個人の借金の三重苦を作ってしまったと言われています.それは,1997年の通貨危機よりもひどい状態になるのではないかと危惧されています.
ちなみに現在日本は台湾とタッグを組み,熊本に巨大な半導体工場を作り世界に打って出る準備をしております.
いよいよ日本と中国に挟まれてきた状況の中で,前期の尹大統領は,今までの日韓関係を精算して日本との関係修復に舵を切り,更なる連携の道を探っていましたが,『反日』を主張する『共に民主党』の強烈な反対運動の前に敗れ,弾劾裁判にまで及びました.
この6月の大統領選で当選したのは,『反日運動』の権化とも言うべき,李在明大統領なのでした.彼が韓国をどう導いていくかはい注目が必要です.
因みに,韓国の『反日運動』を一目で理解するには,YouTubeで『韓国ウリカルト図表』と検索すれば,世界中があきれる実態が映し出されます.
その一例等は,おとなしい説明で,お薦めします.
筆者の体験談からお話ししましょう.
2013年から上海にあるコンサル会社と契約し,蘇州,杭州,河南省等で年間10回ほど講演やコンサルティングをやってきましたが,当時は訪問するたびに街の形が変わるほど急激な発展をしておりました.
一応五つ星ホテルに宿泊していましたが,日本との違いはどのホテルも部屋がやたらと広いこと,防毒マスクとコンドームとカップ麺が必ず設置されていることに文化の違いを覚えました.
テレビ番組は約60チャンネルあり,CNN,ABC,NHKは自由に見えました.インターネットもGoogle以外は自由に使えた覚えがあります.
2020年からは中国訪問はコロナで中断し,2024年に久しぶりに訪れた上海は,様子が変わっておりました.
人でごった返していた浦東机場の入国審査場は,すいすいと通過でき,交通量が減っているのを実感しました.テレビ番組は,中国語のみになってしまい,何がどうなってるかよくわかりませんが,スイッチを押すと『政府のお知らせ』『教育番組』『バラエティー・ドラマ』のサムネイルが画面に出てそこから選ぶSystemになっていました.
何よりも驚いたことに,各ホテルでWi-Fiにつなぐことができましたが,外国人がインターネットにつなぐためには当局の許可書がいる様に変わってしまっていました.
結局,日本で契約していったスマホの『海外ネット契約』だけが頼りでした.
中国の政治・経済はマスコミ報道では,2019年からの香港への統制強化,コロナ禍に於ける上海の強制ロックダウン,経済活動に大ダメージ,市民生活の困窮,不動産バブル崩壊・・・.海外資本の引き上げ・・・.等が報じられていますが,筆者の経験から見れば,中国という国は,2019年という年を境にして全く違った国になってしまった,と断言できます.
共産主義政権の寿命という考えでまとめてみますと,以下のようになります.
最近行われた農耕地拡張運動は,毛沢東が犯した誤りと同じことを繰り返すように思えます.中国のあれだけの大きな組織を一党独裁体制でコントロールできるとはとても思えません.近いうちに何らかの形で政治体制に大変化が起きると覚悟しておいた方が良いでしょう.
2022年2月24日から始まったロシアによるウクライナ侵攻は,膨大な戦力を背景にロシアの圧倒的勝利と思われましたが,ウクライナの不屈の反抗で持ちこたえておりました.
2025年6月,ウクライナが独自に開発した各種のドローンと,巧みな作戦によりロシア本土の燃料施設や軍事施設に攻撃を仕掛け,大きな戦果を上げています.
ロシア国民にとってみれば,ウクライナ侵攻は外地の出来事だったものが,ロシア本土の要所要所を攻撃され,しかも市中金利が20%を超えるようになり,物資の不足し生活が困窮してきました.
ロシア庶民の困窮ぶりは,1980年後半のソビエト連邦に似ているので,このまま行ったらロシア連邦が解体されるのでは……という憶測が流れています.
6月15日から17日まで,カナダのアルバータ州で開かれたG7 Summitは,米国のトランプ大統領はイラン問題があるとして初日だけで帰ってしまいました.
YouTube上では,米国抜きの商取引の約束事が話し合われたとされています.
マスコミの裏を取れていませんが,度量衡の世界で,米国のみがヤードポンド法で他国はすべてメートル法になっています.そんな中で国際技術標準がヤードポンド法で書かれているとすれば大きな矛盾です.
通貨も,現在のような高度に発達した通信社会では,為替市場と連動して互いの通貨で決済すれば,国際通貨としてのドルはなくても商取引は可能なはずです.
『お前のセリフが気に入らないから明日から関税を20%上げる……』ような国とまともなビジネスはできません.グローバルな企業と自認する会社は,そんな国と関わりたくなるはずです.関わりたくなければ本社を移してしまえばいいわけです.
例えばアマゾンにとってみれば,世界から品物を仕入れて世界中に売るわけです.その物流のハブをアメリカ本土に置けば,輸入品に全部関税をかけられてしまいます.
アメリカ以外のところにハブおけば,アメリカに売る分だけ関税がかかることになりますから,当然アメリカから出てきます.
トランプ大統領の輸入関税の駆け引きを見ていると,自分の体に刃物を押し当てて,自分の言うことを聞いてくれないと自分の体に傷をつけると言っていることに等しい行いです.
関係者は血を見るのが嫌なのでご機嫌とっていますが,度が過ぎれば『お好きにどうぞ』と言えばいいだけです.関税が完全上がって困るのは自国民です.トランプ大統領が言うような10% 20%の高関税で自国民が生活できるはずがないのです.
さらに言えば,米国民にとってみれば輸入品全部ですが,輸出側にとってみれば,全世界に輸出しますから米国向けはほんの数10%にすぎません.
賢いネゴシエーターは,相手がくたびれるのでじっくり時間をかけて話をするでしょう.
日本の赤澤大臣は,ニコニコしながらじっと時間を待つ作戦に出ています.最高の策だと思います.
裏は取れていませんが,トランプが帰った後のG6 Summitでどうやってアメリカを外して世界を回して行くかが話し合われたものと私は信じます.
つまり,2025年6月を以て,ヒノキ舞台の上にアメリカはいるけれど,誰もアメリカにまともに話しかける人はいない時代が始まったと思います.
2025年6月22日イランの核施設を米国のステルス爆撃機がバンカーバスター弾を投下しました.これは広島に原爆を落として太平洋戦争を終わらせたと同じで,必要な選択だったと語ったそうです.この言葉は日本では物議を醸しました.
元はといえば,イランとの間に核拡散防止条約を結んであったのを,前記のトランプ大統領が不十分であるとして廃棄し,それにイランが反発してウランの濃縮を始めた雪笹があります.核を持つ常任理事国の大統領プーチンが,突然ウクライナに侵攻した事と同じ事を,核を持つ上忍地獄の大統領のトランプがやったということは,プーチンにウクライナ侵攻をやめろという資格がなくなってしまったことを意味します.
所長挨拶として2025年6月に起きた大木な出来事を取り上げました.言い方変えればロシアのプーチン大統領,中国の習近平主席,アメリカのトランプ大統領の率いる大国が老人の妄想により世界をとんでもない危険な状態に陥れている事と,隣国の韓国が経済破綻の崖っぷちにありながら,反日を唱える一方で協力を求めてきている事.
毅然とした態度でないと逆に日本は馬鹿にされる状態になっていること.
いずれにしても,リーマンショックをはるかに超える大不況が全世界を負う可能性が極めて大きいとされていますので,これに備えての対策に邁進して頂きたく思います.先月申し上げた『人を減らすな!在庫を減らせ!』『省人化ではなく少人化を』等を参考にしていただければ幸いです.
以下,前回に引き続き『日米貿易戦争とトヨタの対応』についてお話しします.
筆者は1995〜1996年の2年間トヨタの物流管理部長の職におりました.
1995年春,渡米して,GMとの合弁会社NUMMIを視察しました.売れていると言うトヨタブランドのC車の完成車Yardは満タンでした.ところが,売れていないというGMブランドのP車の完成車Yardは空でした.
売れている方の工場在庫が少なく,売れてない方の工場在庫が多いというのが常識ですが,NUMMI では,それが正反対だったのです.現地駐在員に,実態を調べて報告するように厳命をし,帰国しました.
半年後に調査結果が届き愕然としました.内容は以下の通りです.
米国のBIG3は,週次生産・週次決済が基本で,N週の売れ行きを見て,(N+2)週の生産計画を立てて(N+1)週に部品の手配をし,(N+2)週に工場で生産し,(N+3)週中には全米に配送完というLead-Timeでした.(駐在員の報告では,実態はもっと時間が掛かっている……とのことでした)
米国デーラーは在庫販売方式ですから客から見たOrder-to-Delivery-Lead-Timeは,以下のようになります.
日本メーカートヨタ・日産・ホンダの3社は,ロスのTorranceに本社を構えており,窓から互いの会社の看板が見える状態でした.3社とも,月次生産・月次決済を採用しており日本生産車はM月中旬に日本の生産管理部で(M+1)月の全世界向けの生産計画を決め,部品の手配をします.(M+1)月の十数本の生産ラインで全世界向けの車両の生産が行われ,次々と輸出先別埠頭に運ばれ輸出手続きを済ませます.
当時の自動車運搬船は乗用車換算で4000台積載できましたが,税関が輸出用保税Yardに4,000台揃った時点ででしか輸出用書類の受理をしてもらえなかったのでLead-Timeの大きなロスとなっていました.
船便は日本出港から米国港での荷揚げまで,西海岸で2週間,東海岸まで3週間掛かりました.
一口で言えば,(M+2)月に米国揚げ港に到着となります.
つまり,日本車は,揚げ港に膨大なMotorプール在庫を抱えての在庫販売になります.
米国の客から見れば店頭在庫販売ですから,Order-to-Delivery-Lead-Timeは
日本の生産管理部で,日本で全世界向け完成車生産をするのと同じようにM月に(M+1)月用の生産計画を立て,Supplierに日々の個々の部品の納品指示をします.
(M+1)月になると,各Supplierから納品された部品を計画に基づいてコンテナにバンニングして米国へ輸出します.日本側でバンニングしてから,現地組立工場でデバンニング(開梱)するまで海上コンテナで約一ヶ月掛かりますから,M月に生産計画を立てた車両用の部品が全部米国の組立工場に届くには(M+2)になっています.
結局,M月に日本の生産管理部が計画した生産計画で,現地米国で全て完成車にするには,何と,(M+3)月末になってしまっていたのでした.
これを米国の客から見れば,店頭在庫販売方式ですから
トヨタと各販売店の間で年間の車名別販売台数を契約する.(ファーム制度)
販売店は,お客様と車の使用の細部,色・タイヤ・オプション等々約20項目を詰め,トヨタに最終注文すると,3日後その通りの仕様の車がライン・オフします.フレームナンバーと車庫証明を持って当局に届けてライセンスプレートをもらいます.ほぼ同じ頃車両が店頭に届きます.販売店は車両を磨き上げ,細部のオプションを取り付け,認可されてライセンスプレートを取り付け,納車します.米国販売店と同じ様に整理すると
更に,車両組み立て工場で使う部品は,在庫補充方式を使い4時間間隔でサプライヤーから納入されています.その結果組み立て工場内の棚卸資産回転数は一日以下となっています.
半年後に米国から報告されたこの状態調査結果について,全く驚きでした.
販売店の店頭在庫というのは,モータリゼーションの進んだ国は色やグレード等々,Userの好みが多岐にわたっていますので,そう簡単にフィットするものではありません.半年間売れずにいるという車もざらにあります.このため販売店は,多少値引きしても店頭にあるクルマを説得して打ってしまいますので,客の目から見たサービス低下というのは,必ずしもリードタイムの長さに比例するわけは無いと判断しました.
一番の問題点は,市場が冷えてきた時にどのタイミングでブレーキをかけるかということです.米国内で生産する日本車については,ブレーキがかかるのは3ヶ月後ですから,現地の需要を100%現地生産車で補うことは,売れない車を大量に抱え込むというリスクもありますので,当面は米国内での完成車生産は腹8分目か7分目納めておき,残りは日本から完成車を輸出するという作戦を改めて確認しました.
日米の貿易摩擦の点から考えると,部品をあくまでも米国内で生産しろということになります.ここで日本企業のカーメーカーとサプライヤーとの関係が欧米とは違っていることを再確認する必要があります.
以前にドイツでは,技術部門が完全なる設計図を出し,製造部門はその設計図どおりに製造し,車両組み立部門がその部品を指示通り完成車に組み付けるという完全分業になっている話をしました.
この完全分業が出来ていれば,部品の品質は設計図でしっかり保証されており,あとは価格交渉で安いところに発注すればよいという考えになります.
それ故,欧米の自動車は水平分業になっており,世界各地のサプライヤーからコスト最優先で部品を集め完成車にする方策が取られております.
米国のビッグスリーもこの法則に従っており,はるかに多くの構成部品を海外メーカーから購入しているのです.
これに対してトヨタは全く異なった考え方をしております.
組織の壁を取り払い,コンカレントエンジニアリングという考え方で,開発段階から生産技術や製造現場さらには部品メーカーが入り込み,例えばデザインが決めたヘッドランプの形状の中で,ランプの熱をどう逃がし,隣り合う部品との見栄えをどう向上させるか.関係する車両メーカー,部品メーカーが同時並行に設計おすすめ,そこにそれぞれの製造現場が入り込み,御客様に愛される車づくりを目指してとことんすり合わせをしているわけです.
図面にかけないノウハウで細部を取り決めているのです.
こういうやり方で設計しているので,一緒に開発した仲間以外に部品を発注するという発想は浮かんできません.
先に述べた1995年の頃は,トヨタ系のサプライヤーがまだ充分北米に進出していなかった時代ですが,その後以前述べたように,無理やり米国のサプライヤーから部品を輸入させられることになりました.不良率が高い米国のサプライヤーから物を買うぐらいだったら,日本でお付き合いしているもともとのサプライヤーに米国に進出していただき,【D】で書いたような,日本国内のサプライチェーンと同じもの北米に作るのがベストであると誰もが考えるようになりました.
2011年の東日本大震災は,日本で震災があれば,北米でも生産ができなくなるというのはまずいと誰もが思うでしょう.トヨタが日本を3分割し,どこで大災害が発生してもできれば2/3最低限1/3の生産量は確保できるようにしましたが,これは海外でも同じことで,ヨーロッパ,中国,東南アジア,北米は単独で車両生産ができるような体制を作る方向に舵を切ったのでした.
ただ自動車生産の宿命として新車発売時のピークを100とすると,モデル末期には20〜30まで落ちてしまいます.それゆえ定常状態では市場の販売数の70から80%で稼働させておき,それに対するそれぞれの地区におけるプラス・マイナスは,日本を胴元とし,各地区の乗用車を横持ちすることにより,工場の稼働率を維持し,雇用の安定化を図る政策をとっています.
トランプ関税のニュースで,日系自動車メーカーの現地工場の生産比率が市場の70〜80%とあったのは,安定させ首切りをなくするための方策であったのです.
話がダラダラと長くなってしまいましたが要約しますと,東日本大震災の影響で部品ができなくなり,北米工場まで生産停止を余儀なくされました.世界のどこで戦争や大災害が起きても全体を止めずに済むように,地域分散型の生産体制を日本のメーカーはとってきました.
それゆえ,感染者25%の追加関税.自動車部品にも25%の追加関税を課したとしても,日本メーカーは北米における主要車種の生産は北米だけで賄えるようにしてあるので,ある生産台数までは全くトランプ関税の影響なしに生産できるようになっています.
特にトヨタは章男会長の下で体制整備を進めてきましたし,米国民がガソリン代を気にするような世の中になってきますから,優秀なハイブリッド車を持つトヨタとホンダが飛び抜けて有利な状況に置かれると思っています.
読者諸氏も安心して見守っておいてください.
またもや季節の挨拶が長くなり過ぎましたので,『TOYOTAとNISSANの歴史をJコスト論で斬る』は今月もお休みさせていただきます.
2025年6月30日
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知