読者の書評『田中先生の3著作の位置づけ』

北京在住の 趙 晟誼 と申します。

田中先生の3冊の本
『考えるトヨタの現場』2005年ビジネス社と
『トヨタ流 現場の人づくり』2006年日刊工業新聞社
『トヨタ式カイゼンの会計学』2008年中経出版社
を精読し,トヨタ生産方式を勉強しています。

先生の本を精読しながら、TPS(トヨタ生産方式)に関して、実用的で、なおかつ根本的な哲学をとても分かりやすく紹介されたことで、とても感心をいたしております。とりわけ、小生は中国の文化、特に仏学には,はまっていることもあり、先生の本は世の中にとって,如何に価値があるものであるかを,深く感じる一方でございます。

(1)『考える トヨタの現場』には、たくさんのいい例が挙げられていて、まさに,あれほどの例は,トヨタの現場を知り尽くさないと書けないし、また田中先生自身の実力と先生によるTPSへの貢献の大きさにも脱帽いたします。更に、「諸行無常」のご指摘は、製造現場の根本を明かされており、いままでTPSの形ばかりを求めていた人々にとって、大変いい教育になるはずだと確信しております。

(2)『「トヨタ流」現場の人づくり』には、どうやって人を育てるべきかについて、徹底的に分析されており、まさに人間教育の本質をしっかり把握されていることであり、何もモノづくりの世界に限ることなく、すべての産業界または教育業界などにも共通し、さらに言えば世界中の親たちにとっても勉強すべきものだと感じております。中国では、「魚を与えず、漁を与えよう」(つまり結果を教えるのではなく、方法を教えようとのこと)という教育方法に関する諺がありますが、これは先生の本の中に完全に反映されております。また、管理者として、常に部下にちょっと上のレベルの仕事を与えることによって、部下を育てるべきだとのご指摘は、チームワークを「茹で蛙(皆マイナス志向で動けないまま駄目になる)」にさせないコツでもあり、「止まれば後退」を防ぐ大変素晴らしい指導法だと思います。小生にとって、多大な収穫になりました。

実は、今まで、中国の他のコンサル会社から、日本人コンサルント(TPS指導)による中国企業への指導は、失敗例がほとんどだとの情報が入っており、田中先生のこの2冊の本の中には、これらの失敗の原因についてほとんど書かれており、心より感心いたしております。この2冊の本を読んだ上で、TPS導入を図ったら、もっと成功率が上がるに違いないと信じております。

『トヨタ式 カイゼンの会計学』には、従来の会計学に時間の概念をより鮮明に組み込んだ,先生オリジナルの(3)『Jコスト論』の説明と,それを使ってのTPSによるリードタイム短縮の改善効果の評価法を易しく説明してあります。

この(3)「Jコスト論」は本当に科学的なもので、TPSの「ジャスト・イン・タイム」を支える会計学として成りたっており、大変素晴らしいものだと思います。これは、小生の恩師である河田信先生の「潜在利益」などの新しい概念と合わせて、まさに会計学畑として、21世紀モノづくりへの大きな貢献であり、歴史上名を残す功績になるに違いありません。

小生は現場のTPSを成功するために、いつも「陰」「陽」がともに大事だと考えております。「陰」とは目に見えないが、考え方、価値観、目指す目標など、最も大事なことであり、これは先生の(1)『考える トヨタの現場』と(2)『「トヨタ流」現場の人づくり』の中に、肝心なことはほとんど書かれております。
「陽」とは目に見えて、ルール、指標、あるいはツールなどのことであり、先生の(3)「Jコスト論」はまさにトヨタ式現場カイゼンを評価するものとして、TPSの「陽」をサポートする大変素晴らしいものだと思います。
さらに、「陰」と「陽」の関係についていいますと、必ず「陰」「主」で、「陽」「従」だとの認識がなければならないと思います。もし逆になったら、いくら「陽」が素晴らしいものだとしても、必ずしもうまく機能することができなくなります。例えば、アメリカ人はいつも「陽」ばかり追及しています。だから世界トップレベルの完璧な法律システムを作り上げたのですが、その一方で、アメリカは世界トップレベルの犯罪率の高い国でもあり、完璧な法律は犯罪に悪用されるケースは多々にあります。

したがって、「陰」が先に立って、初めて「陽」が効くとの優先順位はあらゆる世界で共通すると確信しております。そういう意味で、田中先生の(1)はモノづくりの哲学、(2)は人づくりの哲学、それぞれモノづくり世界の「陰」を最高にまとめている著作として存在し,(3)はジャスト・イン・タイムを評価する会計学という「陽」の指標として、ちょうど(1)と(2)をサポートする役割をうまく果たしており、この三冊の本はまさにモノづくり学をマスターするための最高なコンビになっていると思います。

モノづくりに興味のある読者、特にTPS導入に関心のある読者にとって、ぜひ先に(1)と(2)を読んでから、(3)を読んでもらうことをお勧めします。「我々はすでに(1)と(2)は読んで、しかも全部受け入れまして、これから実践に移したいのですが、しかしどうすればいいか自信がない」という状態のあるTPS導入関係者にとって、「じゃ(3)に基づいて進めよう」となれば、最高な成功パターンになるのではないでしょうか。そう信じております。

TPS(トヨタ方式)はトヨタ自動車と離れて、独立した管理学として、まさに日本発、世界への大きな貢献であります。世界中TPSの導入を目指している中、田中先生のこの3冊の本は本当に「TPS導入を成功に導く羅針盤」そのものであり、導入関係者にとって、これらの本を読めば、必ず幸せに感じるだろう。小生もその一人として、先生に最高な敬意を払わせていただきます。